核内プロテオームには、構造的なストレスによって凝集しやすいタンパク質が豊富に含まれています。このことは、タンパクの凝集を伴う神経変性疾患で核内封入体が散見の説明となるかもしれません。マックスプランク生化学研究所のF.-Ulrich Hartl教授の研究チームは、蛍光イメージング、生化学分析、プロテオミクスを組み合わせて、「相分離したタンパクの品質管理区画」としての核小体の役割を調べ、その結果を有名な科学雑誌「Science」にて発表しました。



核小体は、膜に囲まれていな最大の核内サブコンパートメントであり、混じり合わない液状の相からなり、明確な区切りがある区画を形成しています。（図：超解像光学顕微鏡によると、核小体は膜で隔てられておらず、互いに区切りがある、膜のない領域から構成されていることがわかります。© MPI of Biochemistry)

研究チームは、熱ストレス時の核タンパクの先行きを調査するため、NLS-LG呼ばれるレポータータンパクを産生する細胞株を作製しました。NLS-LGは核局在シグナルを発し、核に分布していることを確認することができます。このタンパクの位置は、熱に安定な蛍光シグナルとしてトレースでき、そのフォールディング状態は熱不安定性の蛍光シグナルでトレースできます。研究チームは、細胞を熱にさらすと、NLS-LGのフォールディング状態が変化し、核小体の一番外側の領域に移動することを確認しました。熱ストレスからの回復後、NLS-LGは核内に再配置され、明るい蛍光シグナルはリフォールディングが成功したことを示していました。さらに、細胞内でタンパクの折り畳みを行う重要な装置であるHsp70も、熱ストレスによって核小体に移動することが示されました。Hsp70の活性を阻害すると、熱ストレスから回復した後のNLS-LGの核への再配置も阻まれました。

核小体の崩壊を引き起こす毒素を用いて、核小体形成を妨害し、細胞を熱に晒すと、NLS-LGレポータータンパクは核小体に移動するのではなく、核内に凝集塊を形成しました。Amytracker 680を用いると、核小体の構造とは対照的に、これらの核小体のFociはクロスβ構造を持つアミロイドが陽性であることを筆者らは証明することができました。核小体のFociでは熱ストレスからの回復が遅く非効率的であったが、熱ストレスからの回復に伴いAmytracker 680の蛍光強度が減少したことから、一定のリフォールディング能力があることが明らかとなりました。

核小体の品質管理機構の保護能力を調べるために、細胞を長時間の熱ストレスに曝しました。その結果、核小胞の体積はミスフォールディングされたタンパクの流入によって増加し、核小胞の外観は液滴状から硬化した状態に変化しました。この条件下で、NLS-LGレポータータンパクを発現する細胞にAmytracker 680を使用すると、明確な核小体シグナルがクロスβ構造を持つアミロイドの存在を示し、これは熱ストレスからの回復とともにゆっくりと溶解しました。このことは、Amytracker 680 が核小体のような相分離した区画おけるアミロイドの存在を明らかにする可能性を示しており、Amytracker がタンパク質の凝集やアミロイド形成の研究のための in vitro 液-液相分離に関する実験に使用できるツールであることを強調しています。

Frottin氏らの発表は、「核小体は、タンパク毒性ストレス条件下でミスフォールドしたタンパク質のサブセットの貯蔵区画として機能し、それらをリフォールディングまたは分解に適した状態で保存する」という概念を開拓するものです。環境ストレス因子などによる核小体品における質管理の障害は、特発性神経変性病変の出現に直接的に寄与している可能性があります。
<引用文献>
Frottin, F et al. (2019) The Nucleolus Functions as a Phase-Separated Protein Quality Control Compartment. Science 365 (6451): 342–47.
The nucleolus – a known organelle with new tasks. Press release from MPI Biochemistry

メーカーのページはこちらです：Prolonged stress leads to accumulation of misfolded proteins in the nucleolus
Amytracker紹介ページはこちらです：組織や生細胞のアミロイドを手軽に染色（ebba biotech社 Amytrackerのご紹介）